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東京高等裁判所 平成元年(行ケ)168号 判決 1993年2月10日

東京都千代田区大手町二丁目6番2号

原告

日立建機株式会社

代表者代表取締役

岡田元

訴訟代理人弁理士

武顕次郎

山田利男

東京都千代田区霞が関三丁目4番3号

被告

特許庁長官 麻生渡

指定代理人

佐藤洋

土井清暢

中村友之

長澤正夫

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、昭和63年審判第15051号事件につき、平成元年6月1日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続きの経緯

原告は、昭和56年9月30日、名称を「無限軌道走行体」とする考案(以下「本願考案」という。)につき、実用新案登録出願をした(昭和56年実用新案登録願第145842号)が、昭和63年6月10日に拒絶査定を受けたので、同年8月23日、これを不服として審判の請求をした。

特許庁は、同請求を特許庁昭和63年審判第15051号事件として審理したうえ、平成元年6月1日、「本件審判の請求は成り立たない」との審決をし、その謄本は、同年7月3日、原告に送達された。

2  本願考案の要旨

別紙審決書写し該当欄記載のとおりである。

3  審決の理由

審決は、審決書写し記載のとおり、本願考案の出願前に我が国で頒布された特開昭56-60775号公報(以下「引用例」という。)の記載を引用し、本願考案は、引用例の記載から、当業者が必要に応じて極めて容易に考案できたものであるから、登録を拒絶すべきものであると判断した。

第3  原告主張の審決取消事由

審決の認定中、引用例に、側部材と、該側部材の両端に設けられたチェーンプーリ及び歯車と、該チェーンプーリ及び歯車との間に巻回して設けられたチェーンと、該チェーンを案内すべく上記側部材に設けられた案内ローラとを有する無限軌道走行体において、中心部の横断面形状を上面中央部から斜めに立下る傾斜部を有する山形状に形成したものが記載されていること、引用例記載の側部材、チェーンプーリ、歯車、チェーン、他方の端部が、その構成と機能からみて、それぞれ本願考案のサイドフレーム、スプロケット、アイドラ、無限軌道帯、スプロケット取付部に対応することは認める。

しかしながら、審決は、引用例発明の重要な構成上の特徴を看過した結果、本願考案との重要な構成の相違点を看過し(取消事由1)、その構成上の相違によって奏することのできる本願考案の顕著な作用効果を看過した(取消事由2)ため、本願考案の進歩性判断を誤った違法があるから、取り消されるべきである。

1  取消事由1(相違点の看過)

(1)  審決は、引用例発明の構成を、「一方の端部と、・・・他方の端部と、これら端部間に介在して案内ローラが取付けられる中心部と、該中心部の下面を閉断面とする下部板とに4分割し」た構成のものと認定し、上記認定部分自体において、一方では3分割構成とし、他方では4分割構成とする矛盾した認定をしている。

しかし、上記いずれの構成と認定するにせよ、看過してならないのは、引用例の側部材が強度部材ないし基礎部材としての下部板(リム25と中心帯域24とで構成される)を主体として構成され、その上面に中心部17(円筒ドーム23と脚22とからなる。)を溶接し、これに交差板49を介して2個の端部18、19を溶接する構造のものであるという点である。

すなわち、遊転ランナ32(本願考案の「案内ローラ」に相当する。)は、正しくは、中心部17にではなく、下部板に取り付けられており、中心部下面の下部板は、実質的にローラ取付部の主要部として機能しているほか、中心部の下面から歯車を取り付ける一方の端部18(本願考案の「アイドラ取付部」に相当する。)の下面まで一体的に延びており、同所の補強部材としても機能しているから、結局、歯車(アイドラ)取付部の一部をも構成するものである。

このように、引用例の構成の特徴は、上記のとおり、下部板を主体とし、下部板が実質的に一方の端部及び中心部の一部を構成している複雑な縦割り、横割りの構成となっている点にある。

(2)  一方、本願考案の重要な構成上の特徴は、次の(a)及び(b)によって、無限軌道走行体のサイドフレームを構成する点にある。

(a) スプロケット取付部と、アイドラ取付部と、ローラ取付部との機能的部分に3分割すること

(b) ローラ取付部の両端部とスプロケット取付部及びアイドラ取付部との接合を、連結部材を介して溶接手段により連結・固着すること

これに対し、上記(1)のとおり、引用例記載の下部板は、中心部の下面から一方の端部の下面まで、一体として延びており、実質的にローラ取付部及びアイドラ取付部として機能している。したがって、引用例の「一方の端部」及び「中心部」は、それぞれ本願考案の「アイドラ取付部」及び「ローラ取付部」には対応せず、正しくは、引用例の上記各部位と、その下面に位置する下部板とが一体となって本願考案の「アイドラ取付部」及び「ローラ取付部」に対応しているものである。

すなわち、引用例の側部材は、「一方の端部及びその下面の下部板」、「中央部及びその下面の下部板」並びに他方の端部という機能別でない単位から構成され、かつ、一方の端部と中心部とが下部板を通じて一体に繋がっている点に特徴があり、本願考案との重要な構成の相違がある。

審決は、この両者の重要な上記相違点を看過して認定した。

2  取消事由2(作用効果の看過)

本願考案は、<1>サイドフレームをスプロケット取付部、アイドラ取付部及びローラ取付部の3部材に分割することによって、各構成部分単体としての製造、加工が容易となる、<2>3分割して製造・加工された各構成部分単体を、連結部材を介して溶接手段により連結・固着しているため、全体の溶接、組立等の作業性も向上する、という構成上の特徴に対応する顕著な作用効果を奏する。

すなわち、<1>については、三部材の一つが不良となった場合、当該不良部分のみを取り替えることによって修理ができること、個々の取付部の形状及び強度は、各取付部にふさわしいものとなるよう自由に設計できること、各取付部の溶接熱による歪みの修正加工は、各取付部を合体する前の小寸法軽量の状態で行え、作業が容易であること、<2>については、各取付部間の境界部周囲のみを溶接することによって連結・固着できるから、溶接機の移動距離が短くてすみ、ロボット化が容易であること等、機能別単体に3分割した構成上の効果には顕著なものがある。

これに対し、引用例のものは、上記1のとおり、複雑な分割構成であり、一方の端部と中心部が、その主要な構造部材である下部板によって一体的に繋がっているという意味において、本願考案のように、ローラ取付部とアイドラ取付部を、それぞれ完成された機能を持つ単体として予め個別に作成し、もって、製造・加工を容易にし、全体の溶接、組立を含む作業性を向上させるという構想は全く持っておらず(たとえば・溶接作業自体をみても、本願考案のように部材が縦割りとなっていないから、複雑な工程を要する。)、したがって、本願考案における上記のような各種の顕著な作用効果を奏することはできない。

審決は、このような本願考案の構成に由来する顕著な作用効果を看過した結果、進歩性の判断において、「設計上の必要に応じて格別の創意的工夫を要することなくなし得る程度の事項である」と誤って判断した。

第4  被告の主張

1  取消事由1について

(1)  引用例の中心部17は、ドーム23と両脚22のみから構成されるものではなく、下部板(24、25)と2個の交差板49を含む「緊密に封鎖した隔室」構造をした1個の組立体から成っている(引用例公報8欄10~15行)。したがって、遊転ランナ(案内ローラ)は、直接には下部板に取り付けられるが、この意味で中心部に取り付けられている。また、一方の端部及び他方の端部は、それぞれ2個の交差板を介して中心部に連結固着されるから、引用例の側部材は、正しくは、「中心部と一方の端部及び他方の端部の三つから構成」されると認定すべきものであり、このほかに下部板を別個のものとして認定する必要はなかったのである。

そして、中心部には、下部の案内ローラのみでなく、上部ローラが取り付けられることは、この種機械の構成の常識であるから、「案内ローラが取り付けられる中心部」という審決の認定は正しい。

一方、細目をみると、引用例の中心部から下面を覆う下部板を区別することもできるから(審決書写し5頁1ないし3行)、引用例を4分割とみることもでき、上記3分割と認定したことと矛盾しない。

(2)  引用例の正確な構成からすれば、引用例は3分割構成であるから、これを前提とした本願考案との対比関係の認定に誤りはなく、審決の「構成に関して、引用例のローラ取付部の下面が下部板で閉鎖されているのに対して、本願考案のローラ取付部の下面に関する構成について特定さていない点のみが一応相違する。」、「本願考案のローラ取付部が引用例における下部板と円筒ドーム(引用例の記載からみて中心部と同一部材であることは明白である。)を一体化したものと基本構成において差異がない。」及び「ローラ取付部とスプロケット(「アイドラ」の誤記)取付部の支持体(「支持板」の誤記)が別体で構成されて溶接されるのに対して引用例の下部板は一体構成とされた点の差異」との相違点の認定に係る記載によれば、審決は、以下の2点を本願考案と引用例の相違点と認定していることが明らかであり、その認定に誤りはない。

<1> 本願考案においては、サイドフレームの構成部分としてのローラ取付部とアイドラ取付部は分割され、連結部材を介して溶接手段により連結・固着され、それらの下面に関する構成については特定されていないのに対し、引用例記載のものでは、側部材の構成部分としての中心部と歯車(アイドラ)取付部と下部板は、中心部に下部板を溶接し、中心部の端部に交差板(連結部材)を介して歯車(アイドラ)取付部を溶接・固着しており、中心部の下面を閉鎖するように取り付けられる下部板はその部分に遊転ランナ(下ローラ)を支持し、歯車(アイドラ)取付部の下面まで連続して延びている点

<2> 本願考案は、サイドフレームを3分割した部材から構成されているのに対し、引用例のものは、細目をみれば、組立体としての中心部から下部板を区分することができ、その結果、4分割した部材から構成されていると認められる点

2  取消事由2について

本願考案のローラ取付部が引用例における下部板と円筒ドームを一体化したものと基本構成及びその機能に格別の相違はなく、また、引用例の下部板は、一方の端部の下面まで延びており、中心部の下面と一体的な部材となってはいるが、本願考案の実施例にもアイドラ取付部の下部に支持板が存在することからすると、引用例の下部板は、歯車(アイドラ)取付部の主たる機能に何ら関与せず、本願考案の支持板と同様、せいぜいアイドラ取付部を補強するものにすぎず、機能的に格別の相違はない。

そうすると、引用例における下部板をアイドラ取付部の下面まで延長させるか否かは設計上の必要に応じてなしうる事項である。

また、本願考案にあっては、サイドフレームが機能別単位ごとに3分割した部材から構成されているのに対し、引用例のものにあっては細目4分割した部材から構成されるとの相違点については、引用例のものにあっても、中心部と下部板と交差板とは、上記1(1)記載のとおり、一方の端部及び他方の端部を溶接固着する前に、「緊密に封鎖した隔室」とされ、組立作業途中においては、本願考案のローラ取付部と同一機能を有する機能的一単位ととらえることができる。

そして、大型物品の製造に際し、その構成要素を3分割にするか、4分割にするかは、当該物品の大きさ、機能、取扱いの容易性、組立作業の効率等を勘案して定められる設計事項にすぎないから、本願考案におけるような3分割による加工、溶接、組立等の作業性の向上等に関する作用効果は、当業者が予測しうる程度のものであり、そこに原告の主張するような格別のものがあるとはいえない。

したがって、本願考案は、引用例記載のものから当業者が必要に応じて極めて容易に考案できたものであるとした審決の判断に誤りはなく、原告の主張は相当でない。

第5  証拠

記録中の書証目録記載のとおりである(書証の成立については、当事者間に争いがない。)。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1について

(1)  審決が引用例発明の側部材の構成を、「一方の端部と、・・・他方の端部と、これら端部の間に介在して案内ローラが取付けられる中心部と、該中心部の下面を閉断面とする下部板とに4分割し」た構成のものと認定したことは、当事者間に争いがなく、審決が上記認定部分において「中心部」の語を下部板を含む意味として使用する一方、下部板を含まない意味としても使用していることは被告もこれを争わないところである。

原告は、中心部との用語に係る上記審決の認定部分の矛盾を主張するが、下記(2)認定のとおり、引用例においても、「中心部」の語は、広狭二義に使用されていると解することができ、審決の上記認定部分の用語もこれに由来したものと認められるから、上記認定部分をもって誤りであるとはいえない。

そして、審決は、「本願考案の・・・ローラ取付部とスプロケット(「アイドラ」の誤記と認められる。)取付部の支持体(「支持板」の誤記と認められる。)が別体で構成されて溶接されるのに対して引用例の下部板は一体構成とされた(第2図参照)点の差異」(同写し5頁4~10行)として、実施例の図面をもとに引用例の下部板の構造認定をしており、甲第3号証によれば、引用例の図面第2図には、下部板が一方の端部の下面まで一体構造として延びている構造のものが図示されているから、審決の引用例の構成認定に、引用例の下部板の構造を看過した違法はない。

(2)  原告は、引用例の下部板は、他方の端部を除き、中央部の下面から一方の端部の下面まで強度部材として一体的に延びており、実質的に遊転ランナ(案内ローラ)及び歯車(アイドラ)の各取付部として機能する構成となっているのに対し、本願考案は、スプロケット取付部と、アイドラ取付部と、ローラ取付部との機能的部分に3分割することを特徴とするものであり、審決は、この重要な構成の相違点を看過したと主張する。

甲第3号証によれば、引用例の特許請求の範囲には、その第1項に、「2個の縦方向の側部材に組立てた中心フレームによって構成され、液圧シヨベルのような作業機械のための支持シャーシにおいて、逆V字を形成するよう曲げた金属板と、この逆V字の側部の下端に嵌着して前記逆V字を閉じる閉板とによって各前記側部材を本質的に構成したことを特徴とする作業機械の支持シャーシ。」と、その第8項に、「2個の交差板を各側部材の端部に接触して設置し、これ等2個の交差板を前記逆V字状の金属板と前記閉板とに溶接して前記側部材の緊密に封鎖した隔室を形成した特許請求の範囲第1~7項のいずれかに記載の支持シャーシ。」とが記載され、発明の詳細な説明中には、引用例の中心部若しくは下部板に関し、以下の記載があることが認められる。

すなわち、引用例発明の全般的な説明として、<1>「本発明支持シャーシは逆V字を形成するよう曲げた金属板と、この逆V字の側部の下端に嵌着して前記V字を閉じる閉板とによって各前記側部材を本質的に構成したことを特徴とする。」(同4欄13~16行)、<2>「本発明は次のように構成するのが有利である。逆V字を閉じる閉板を圧延する。逆V字の側部の下端の端縁を閉板の上面に接触させて端縁を閉板に溶接することによって閉板を逆V字状の金属板の側部に接合する。閉板に所定の厚さの中心帯域を設け、この所定の厚さより大幅に厚い材料のリムを閉板の側部のおのおのに設ける。」(同4欄17行~5欄4行)、<3>「2個の交差板を各側部材の端部に接触して設置し、これ等2個の交差板を逆V字状の金属板と前記閉板とに溶接して側部材の緊密に封鎖した隔室を形成する。」(同5欄12~15行)との記載があり、次に、図面に基づく説明として、<4>「各側部材15は中心部17と2個の端部18、19とを具え、中心部17にこれ等端部を20、21で溶接によってそれぞれ取付ける。これ等端部を設けることにより、一方の端部18によって対応する軌道を駆動するチェーンの張力を制御する歯車を取付けると共に、他方の端部19によってチェーンプーリ及び軌道を駆動する機関を取付ける。」(同6欄13~20行)、<5>「側部材15の中心部17を湾曲金属板によって構成し、その断面を逆V字状にし・・・下部板によってこのV字状部を閉じ、所定の厚さE24の中心帯域24でこの下部板を構成し、中心帯域24の両側に厚さE25の2個のリム25を設置し、」(同7欄2~10行)、<6>「脚22の下端縁28を対応するリム25の上面29に接触させ、30で溶接する。更に下面27の元来の平坦さと、中心帯域24の下面26の凹形との組合せによって・・・遊転ランナ32を位置させると共に、ねじ35によってランナ32の回転組立体の軸受36を固着する。」(同7欄16行~8欄2行)、<7>「各側部材の中心部17の端部に2個の交差板49を設置し、ドーム23の脚22の端縁と、下部交差板24、25とに50で交差板49を溶接し、各中心部17を少なくとも緊密に封鎖した隔室にする。端部18、19を前記交差板49に20、21で溶接する。」(同8欄10~15行)との記載がある。

上記の記載によれば、引用例発明において、支持シャーシの側部材15は、中心部と2個の端部18、19からなり(上記記載<4>)、中心部17は、断面逆V字状の金属板(ドーム23とその脚22からなる。)によって構成され、その下部は下部板(閉板、リム25と中心帯域24とで構成される。)が溶接されて閉じられ(同<2>、<5>、<6>)、下部板によって下部を閉じられた中心部17は、その両端部にそれぞれ交差板49が溶接されることによって、緊密に封鎖された隔室となる(同<3>、<7>)ものであることが認められる。すなわち、引用例においては、中心部17は、下部板で閉じられる前後を通じ、中心部17と称せられていることが明らかであり、審決の前示認定もこれに即しているのである。

そして、原告が自認しているとおり、引用例の中心部の下部板は実質的にローラ取付部の主要部として機能しているのであるから、中心部とその真下の下部板の部分を合わせたものは、本願考案のローラ取付部に対応することは明らかである。

次に、引用例の下部板の構成が原告主張のように、中心部の下面を閉鎖しているだけでなく、一方の端部18の下面まで一体として延びていることは、第2図に図示されているが、引用例において、下部板が第2図に示された構成に限られるべきことは、本文中に何らの記載がない。すなわち、引用例の側部材の中心部は、逆V字状の金属板と、その下面を下部板で閉鎖されていることを必須の構成要素とされているが、下部板が中心部の下面を閉鎖するばかりでなく、一方の端部の下面まで一体として延びていること及び一方の端部の下面の下部板が歯車(アイドラ)取付部として機能することについては、特許請求の範囲に規定されておらず、発明の詳細な説明中にも特段何も説明されていない。

むしろ、前記引用例の記載から明らかなとおり、側部材が中心部と2個の端部からなること、中心部が2個の端部とは異なり、下部板と交差板により緊密に封鎖された隔室となること、すなわち、側部材が、中心部、歯車が取り付けられる一方の端部、チェーンプーリが取り付けられる他方の端部の三部材からなることを強調して説明していることと、「本発明は図示の実施例に限定されず本発明は本発明の範囲を逸脱することなく種々の変更を加えることができる。」(同12欄3~5行)との記載に照らせば、引用例は、原告主張のような構成に限られず、下部板が中心部の下面を閉鎖するのみで、一方の端部の下面まで延びていない構成のもの、すなわち一方の端部と中心部とは単に交差板を介して連結・固着されている本願考案と同一の縦割3分割構成のものを排斥するものではなく、引用例にも側部材を三つの構成部分単位から構成するという本願考案と同様の技術思想が開示されているといわなければならない。

そうすると、引用例の歯車を取り付ける一方の端部は、本願考案のアイドラ取付部に対応するものということができるから、引用例が一方の端部の下面まで延びた下部板を具えているもののみを開示していることを前提として、本願考案との重要な構成上の差異を主張する原告の主張は、その前提を欠き、失当である。

原告の取消事由1の主張は理由がない。

2  同2について

原告は、審決が本願考案の格別の作用効果について看過した旨主張する。

しかしながら、引用例の下部板で閉じられた中心部が本願考案のローラ取付部に、引用例の一方の端部が本願考案のアイドラ取付部に、引用例の他方の端部が本願考案のスプロケット取付部に各対応すること、引用例の下部板が必ずしも一方の端部の下面まで一体として延びている構造のものでないこと、そして、引用例にも、側部材を三つの構成部分単体から構成するという本願考案と同様の技術思想が開示されていることは、前示のとおりである。

そのうえ、引用例の他方の端部は、独立した部材として構成されており、これが交差板を介して中心部に溶接手段によって連結・固着されていることに照らせば、原告が本願考案の顕著な作用効果として主張するサイドフレームを複数の構成部分単体から構成し、これらを溶接手段により連結・固着することによって生ずる作用効果は、他方の端部に関して、引用例の発明が既に実現していることと認められる。すなわち、本願考案は、引用例の他方の端部に関する構成を一方の端部の構成に適用したものに等しく、これをするについて、当業者に格別の困難性があるとは到底認めることができない。

そうすると、本願考案は、引用例の記載から当業者が必要に応じて極めて容易に考案できたものであり、原告の主張する本願考案の作用効果も考案の当然の結果として格別のものがあるとはいえない。

原告の主張2も理由がない。

3  以上のとおり、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、その他審決にこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 山下和明 裁判官 三代川俊一郎)

昭和63年審判第15051号

審決

東京都千代田区大手町2丁目6番2号

請求人 日立建機株式会社

東京都新宿区西新宿1丁目23番1号 新宿千葉ビル4階 広瀬特許事務所

代理人弁理士 広瀬和彦

昭和56年実用新案登録願第145842号「無限軌道走行体」拒絶査定に対する審判事件(昭和62年6月1日出願公告、実公昭62-21502)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

本願は、昭和56年9月30日の出願であって、その考案の要旨は、明細書および図面の記載からみて、実用新案登録請求の範囲に記載された次のとおりのものであると認める。

サイドフレームと、該サイドフレームの両端に設けられたスプロケットおよびアイドラと、該スプロケットとアイドラとの間に巻回して設けられた無限軌道履帯と、該無限軌道履帯を案内すべく前記サイドフレームに設けられた案内ローラとを有する無限軌道走行体において、前記サイドフレームを前記スプロケットが取付けられるスプロケット取付部と、前記アイドラが取付けられるアイドラ取付部と、該スプロケット取付部とアイドラ取付部との間に設けられ、前記案内ローラが取付けられるローラ取付部とに3分割し、前記ローラ取付部の両端部と前記スプロケット取付部およびアイドラ取付部との接合部をそれぞれ連結部材を介して溶接手展により連結・固着し、さらに前記ローラ取付部の泥はけ性をよくするため、該ローラ取付部の横断面形状を上面中央部分から斜めに立下る傾斜部を有する山形状に形成したことを特徴とする無限軌道走行体。

これに対して、原査定の拒絶理由である登録異議の決定に引用された特開昭56-60775号公報(以下引用例という)には、側部材と、該側部材の両端に設けられたチェーンプーリおよび歯車と、該チェーンプーリーおよび歯車との間に巻回して設けられたチェーンと、該チェーンを案内すべく上記側部材に設けられた案内ローラとを有する無限軌道走行体において、上記側部材を、上記歯車が取付けられる一方の端部と、上記チェーンプーリが取付けられる他方の端部と、これら端部間に介在して案内ローラが取付けられる中心部と、該中心部の下面を閉断面とする下部板とに4分割し、上記中心部の両端面と上記一方および他方の端部との接合部をそれぞれ連結部材を介して溶接して連結固着し、さらに該中心部の横断面形状を上面中央部分から斜めに立下る傾斜部を有する山形状に形成した無限軌道走行体が記載されている。

本願考案と引用例記載のものとを対比するに、引用例の側部材、チェーンプーリ、歯車、チェーン、一方の端部、他方の端部および中央部は、その構成と機能からみて、それぞれ本願考案のサイドフレーム、スプロケット、アイドラ、無限軌道帯、アイドラ取付部、スプロケット取付部およびローラ取付部に対応する(以下引用例の部材は本願考案の対応部材名でよみかえる)ので、構成に関して、引用例のローラ取付部の下面が下部板で閉鎖されているのに対して、本願考案のローラ取付部の下面に関する構成について特定されていない点のみが一応相違するものと認める。

よって該相違点につき検討すると、本願考案におけるローラ取付部は、第2'図ないし第4図によれば支持板14の上面に枠体23A、33Aないし43Aの下端部が固着されており、該支持板が引用例の下部板と同じ強度部材としての機能を有し、引用例の円筒ドームに対応する本願考案の枠体の下端縁が上記支持板の上面に溶接されている点からみて、本願考案のローラ取付部が引用例における下部板と円筒ドームを一体化したものと基本構成において差異がないことは明らかである。そして細目について、本願考案のスプロケット取付部には、第6図からみてローラ取付部の支持板の延長部に支持板が存在し、審判請求理由補充書に添付された参考図1によればローラ取付部とスプロケット取付部の支持体が別体で構成されて溶接されるのに対して引用例の下部板は一体構成とされた(第2図参照)点の差異も、設計上の必要に応じて格別の創意的工夫を要することなくなしうる程度の事項である。

したがって本願考案は、引用例の記載から当業者が必要に応じてきわめて容易に考案できたものというべきであって、実用新案法第3条第2項の規定に該当するから、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

平成1年6月1日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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